ゲーミングチェアを手がけるAKRacingが、新たなPCデバイスへ進出する。その第1弾として投入されるのが、OLED(有機ELパネル)を採用したPC用モニター「AKRacing OL2701」だ。

▲AKRacing OL2701

OLEDは家庭用テレビでは一般的になってきたが、PC向けのモニターでは非常に稀な存在だ。その理由は、20〜30インチ台の中型OLEDパネルの生産が極めて少ないため。テレビ向けの40インチ以上や、ノートPC、携帯電話向けの20インチ以下のものはあるが、中型サイズだけはぽっかりと空いてしまっていた。

本機「AKRacing OL2701」に搭載されるOLEDパネルは、日本メーカーのJOLEDが開発・生産したもの。生産には極めて高い技術が求められるため、パネル価格もかなり高価になるものの、同社が手がけるRGB印刷方式によるOLEDパネルは、忠実な色表現や色域の広さといった品質の高さを売りにしている。

それでもOLEDパネルにこだわり、AKRacingの新ジャンル第1弾製品として持ってくるところに、AKRacingの気概を感じる。今回、発売前に製品にふれる機会をいただけたので、ゲーマーの視点から評価していこう。

国産有機ELパネルを採用。軽さも大きなメリットに


まずは、「AKRacing OL2701」の主なスペックを見てみよう。

  • パネルサイズ:26.9インチ
  • パネル方式:OLED
  • 解像度:3,840×2,160ドット
  • リフレッシュレート:25〜60Hz
  • 応答速度:0.1ms(tr+tf)
  • 輝度:540cd/m2(ピーク)、250cd/m2(ラスター)
  • コントラスト:1,000,000:1
  • 視野角:178度(上下・左右)
  • 色域:sRGB比130%、DCI-P3比99%
  • 最大表示色:約10億7,000万色(10bit)
  • 映像入力:HDMI 2.0×2、DisplayPort 1.4×1、USB 3.0 Type-C×1
  • その他端子:USB 3.0 Type-A×2(ダウンストリーム)、ヘッドフォン端子
  • スピーカー:2W×2
  • 消費電力:60W
  • VESAマウント:対応(100×100mm)
  • チルト/高さ調整/スイベル/ピボット:-5〜20度/120mm/-30〜30度/なし
  • 付属品:ACアダプタ、HDMIケーブル、DisplayPortケーブル、USB Type-Cケーブル
  • 本体サイズ(幅×高さ×奥行き): 630×571×230mm(スタンド込み)、630×374×38mm(モニターのみ)
  • 重量:5.47kg(スタンド込み)、3.52kg(モニターのみ)
  • 市場想定価格:税込29万8000円

解像度は4K(3,840×2,160ドット)、リフレッシュレートは最高60Hzとなっている。昨今のゲーミングモニターは120Hz以上が一般的で、本格的な大会では240Hz、360Hzといったハイリフレッシュレートが主流だが、本機は一般的なモニターと同じ60Hzまでの対応となる。

応答速度は0.1msとされており、液晶パネルでは実現し得ない高速性能であることを示している。またコントラスト比も1,000,000:1と極めて高い。残像感がなく明暗が締まった美しい映像を取るか、高いリフレッシュレートを求めるかというのが、液晶パネルを採用するゲーミングモニターとの比較基準の1つとなる。

入力端子はHDMI 2.0×2、DisplayPort 1.4×1、USB 3.0 Type-C×1と計4系統。PCだけでなく、ゲーム機など複数の機器を接続して切り替えて利用できる。サウンド関連は、2W×2の内蔵スピーカーに加え、ヘッドフォン端子もあるので、スピーカーから音を出したくない時にも安心だ。

2基のUSB 3.0 Type-A端子は、PCとUSB Type-Cで接続している際にUSBハブとして機能する(USB Type-Cがアップストリーム接続を兼ねる)。

具体的な使用例としては、あらかじめ本機のUSBポートにマウスとキーボードを接続しておけば、ノートPCをUSB Type-C経由で接続するだけで、モニター出力と同時にすぐに外付けのマウスとキーボードで操作できるようになる。

▲入力端子は背面に下向きで配置されている

「AKRacing OL2701」の特徴としてもう1つ、モニターのみで3.52kgと軽量な点も注目に値する。これは液晶パネルを採用した製品に比べてかなり軽量だ。

例えば、筆者が所有している27型4K液晶モニターは比較的薄型軽量のモデルだが、それでも4.6kgある。モニターの設置や移動はそれなりに力仕事なので、これだけ軽いとありがたい。

100×100mmのVESAマウントにも対応するので、壁掛けやモニターアームでの利用にも対応できる。ただ、モニターアームによってはむしろ、軽すぎることが問題になる可能性もあるので、アームを使う際には対応重量は要確認だ。

▲本体とスタンドの接合部は100×100mmのVESAマウントと共用。背面上部には「AKRacing」のロゴがあり、検証機のスタンド部はシルバーだった

圧倒的なコントラストと発色! ただただ美しい


実機は簡単な組み立てが必要。モニターとスタンドのアーム部と土台部の3つがあり、モニターの4つのネジ穴(=VESAマウント)にアーム部を固定した後、土台部を接続するだけでいい。モニターが軽量なおかげで、男性の筆者は1人で楽に作業を進められた。土台は長方形で、幅28cm、奥行き23cmとそれなりに場所を取る。

モニターは26.7インチで、外枠が2cmほどある。最近の狭額縁液晶に比べると、若干サイズは大きくなる。ただ額縁部分はヘアライン加工され、最外周はシルバーで囲われており、高級感もある。

▲今時のモニターにしては外枠はやや広め

高さ調整は最大120mmとかなり調整幅が広い。チルトやスイベルの角度もつけられ、位置調整機能としては十分と言える。

▲モニターを一番高くしたところと低くしたところ。ピボット(回転)機能はない

さて、気になる画質を見ていこう。電源を入れてすぐ感じるのは、圧倒的なコントラストの高さだ。

Windowsのデスクトップ画面を黒単色の背景で表示すると、電源オフ時とほぼ同じ暗さのままに見えてしまうほど。液晶パネルだとこうはいかず、黒部分でも電源オフ時よりほのかに明るく、違いがわかるものだ。

発色も素晴らしい。赤、緑、青のどの色も濃厚で、ゲームのグラフィックは細部までメリハリがあるし、写真などを表示した際にも自然な色味が再現されている。コントラストの高さも相まって、RGB印刷方式のOLEDパネルの良さがはっきりと感じられる。

パネル表面はノングレア(非光沢)処理されているにもかかわらず、黒の深さと色の鮮やかさのせいで、たびたび脳がグレアパネルと勘違いしてしまい、「ノングレアだよね?」と照明の反射光をのぞき込んでしまったほどだった。

さらに、視野角も極めて広い。スペックシートでは上下左右178度と、一般的なIPS液晶パネルと同等の数値なのだが、実物はほぼ真横の角度から見ても全く違和感がないほどで、ここも液晶より優れていると感じられる。

▲コントラストの高さは液晶とは異次元のレベル。発色も極めて良好

▲視野角はどこまで角度をつけても違和感がない

サウンドはモニター底面の左右にある2基のスピーカーから再生される。音質は人の声の音域はよく通るものの、低音はかなり弱めだが、2Wというサイズからすれば一般的なレベルだ。ステレオ感はあるので、ゲームの音を情報として取る分には不足はない。よりいい音で聴きたいなら好みのスピーカーを用意しよう。

ちなみに、音量設定は0から100までだが、0(ミュート)から1にした時の音量変化が大きめなので、小さい音にしたければPCの出力側で音量を絞るといい。

本体の設定操作のインターフェイスは、モニターに向かって右側の裏面にあるボタンで行う方式。5個のボタンが縦に並んでおり、上から順に、①設定呼び出し/決定、②音量/上操作、③画面モード切替/下操作、④入力切替/キャンセル、⑤電源、となっている。すべてのボタンが同じ大きさで並んでいるため、どのボタンをさわっているのかすぐにわからないのが難点といえば難点ではある。

▲操作は背面のボタンを使う。ボタンサイズ的には押し間違えることはない

設定できる項目は一般的なPC用モニターと同様。ここで特筆すべきは、明るさ設定の範囲だ。明るさを0にすると相当暗くなるので、モニターを暗めにして使いたい用途には非常にありがたい。また明るくした場合の光量はまぶしいほどで、設定幅が非常に広い。

映像の明暗差を近づけて自然な色を再現するHDR(ハイダイナミックレンジ)入力にも対応(USB Type-C接続を除く)。HDRの映像を入力すると、自動で明るさ100の最大値に設定される。この設定は他のモニターでも同様の挙動だ。

▲設定項目はシンプル。明るさ調整の幅はとても広い

有機ELならではの高速な応答速度


「AKRacing OL2701」が従来の液晶モニターとは一線を画した画質を持つことは間違いない。ただ、ゲーミングモニターとして重要な点は、やはり遅延関連だろう。パネルの応答速度と、信号入力から映像表示までの表示遅延の両方を確認してみる。

テストにはフリーソフトの「LCD Delay Checker」を用いて、筆者所有のノートPC(TN液晶パネル/フルHD)の画面をミラーリングで出力し、双方を4,000分の1秒の高速シャッターで撮影した。

まず応答速度について。ノートPCのモニターでは、表示している数字より1つ前の数字が残像として見えるのに対し、「AKRacing OL2701」の映像は残像が一切なく、ピタッと止まった絵になっている。

▲下のノートPCの画面ではタイムカウントがブレて見えるが、上の「AKRacing OL2701」は全くブレがない

カラーバーが移動する表示モードでは、ノートPCのモニターは色が変化している部分がグラデーションのように見えるのに対し、本機では表示更新部分の黒線をまたいで、上下ともにグラデーションが一切見えない。2つのテストのいずれも、本機の応答速度が極めて高速である証拠を示している。

▲下のノートPCは色変化がグラデーションのように見えるが、上の「AKRacing OL2701」は境目がくっきりしている

一方、表示遅延はどうか。画面に表示されているタイムカウントを比較すると、ノートPCの方が「08345」、「AKRacing OL2701」が「08343」と、常に2フレームほどノートPCの方が早く進んでいる。もしかすると解像度の違いが問題かと思い、別の4Kモニターを接続してクローン表示してみたが、やはり液晶モニターの方が2フレームほど早かった。

▲4Kモニター同士でも比較。やはり「AKRacing OL2701」(右)の方が遅れている

つまり本機は、液晶モニターに比べて応答速度は圧倒的に速いが、表示遅延は2〜3フレーム程度はある。

もっともOLEDモニターは焼き付き防止処理のためにあえて表示遅延を持たせた製品が多く、本機も例外ではない。メーカーによれば、有機ELパネルの高画質を長期にわたって安心して利用できるように、ピクセル単位で輝度を制御することによる焼き付き低減機能を搭載しているという。


ゲーミングブランドの枠を超えて、普段使いもクリエイティブも快適に


「AKRacing OL2701」を総評すると、映像の美しさは全く文句の付けどころがない。デザインやインターフェイスは保守的でオーソドックスにも感じられるが、RGB印刷方式のOLEDパネルが持つ映像美があれば、華美な演出をする必要もないと考えるのも当然かもしれない。

普段使いではウェブブラウザーなどでのスクロール表示がとてもキビキビしていて、応答速度の速さが効いている。発色の良さやコントラストの高さも素晴らしく、本機を見てから普段使っている液晶に戻ると、これまで満足できていた画質の落ち幅にがっくりしてしまうほどだ。色域の広さを考えても、グラフィック制作や映像編集といったクリエイティブ向けに使っても何ら問題ないだろう。

唯一の難点を挙げるとすれば、表示遅延の大きさだが、1フレーム単位を競うようなFPSや対戦格闘ゲームには、やはりeスポーツに特化したゲーミングモニターを選ぶべきであり、OLEDの映像美を兼ねたいというのはないものねだりというものだ。

逆に、美しいグラフィックで楽しみたいMMO RPGやRPG、アクションアドベンチャーのようなゲームであれば、色再現性の部分で、これまでにない最高のゲーム体験が約束されている。

そして重要なことは、本機の価値は性能だけに留まるものではないということだ。

JOLED製のRGB印刷方式のOLEDパネルを採用した製品は、極めて数が少なく入手も困難で、価格も非常に高価。税込29万8000円という価格も、一般的なモニターとして考えると高価に感じられるが、新型コロナと半導体不足の影響も続いている現状では、必要とするユーザーが欲しいと思った時に購入できる製品があるというだけで大きな価値がある。

加えて、本機はAKRacingブランドにとって新たな挑戦の第一歩となる製品でもある。その意味で、価格や性能で他社と競うような中途半端な製品であるはずはない。AKRacingとすれば、新たな市場に打って出るなら、強烈なインパクトで一撃お見舞いしてやろうといったところだろう。

ゲーミングチェア業界だけでなく、スポーツ分野やテレビ業界など、ゲームにとらわれないブランドの広がりを見せているAKRacing。今後さらにジャンルが広がっていくとしても、そのたびに他社を圧倒する製品を出してくるのではないかと期待せざるを得ず、見事な戦略と言える。

▲映像の美しさを最優先にするなら、用途を問わず「AKRacing OL2701」を選ぶ価値が大いにある


AKRacing
https://www.akracing.jp/
「AKRacing OL2701」商品情報ページ
https://www.akracing.jp/products/detail/25
「AKRacing OL2701」Amazon商品ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B1TWX8QT

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